エッセイ「犬猫は自然の使者~「野生と神性」~」

ハチの画像
波止場でくつろぐハチ。

犬猫は自然の使者~「野生と神性」~

 

先日、飼い犬のハチに手を噛まれて血がでた。

血はすぐには止まらなかったので

「動脈を切ったか」

「救急車が必要かも」と騒いだが、

傷口を押さえているうちにものの数分で止まった。

 

不意のことで動揺したようだ。

 

「飼い犬」と言っても私の犬ではなく、娘の家の飼い犬だ。

野良の幼犬を拾って4匹の猫たちと一緒に家の中で飼っているのだが、娘夫婦はハチに飼い犬としてのきちんとしたしつけをしていないので2才になろうとする今も「お手」も「お座り」もままならない始末である。

 

ではハチがいつも凶暴なのかというと、そうではない。

無邪気で甘えん坊、小心で臆病者だ。

 

「ハウス!」と指示すればちゃんとテーブルの下に潜る。

そこが彼の居場所なのだ。

 

そのハチが私を噛んだのにはもっともな事情があった。

 

事の起こりはハチにおやつを与えたことだ。

テーブルで酒の肴をつまんでいると、クンクンと嗅ぎ回るハチにもつい何かを与えたくなる。

 

今回はチーズだった。

ハチには乳糖の耐性がないから乳製品はダメと娘が禁止していたが・・・チーズはハチの好物なのである。

それで小さなアルミの包みの上にちょこっとチーズを乗せて与えると、一生懸命に食べ出した。ところが、あまりに勢いがいいのでそのアルミの包みも飲み込んでしまいそうだ。

 

見かねた甥がその包みを取りあげようとすると「ガルル~」と唸ったのだ。じゃあ私がと、帰省していた上の娘が手を出そうとすると同じく「ガルル~」。

 

私は二人に諭した。

 

どんなときも犬の食事中に手を出してはならん。

それは野生の本能でテリトリーを犯されたのと同じ反応で攻撃体勢に入るからだ。

そう言いながら私自身が数秒後、ハチを宥めようとして手を出した結果が「ガルル~ガブリ!」なのであった。

 

いやはや噛まれる危険性を自分で説明しておきながら、

自らそれを証明するとは・・・愚かにもほどがある。

 

とはいえ、私ほど深い傷ではないが

娘も婿もそれぞれハチの食事中に手を出して噛まれたと聞いて

へへへと思い、なんだかニコニコしてしまった。

 

犬猫などペットは総じて愛玩動物と呼ばれているが、実はウサギや鳥や鹿や猪や熊など森の生き物たちと同じで「自然の精」なのではないかと思う

 

大地や森林を切り開き自然から離れた生活をしている我々人間に自然からの恵みと喜びという「神性」を運んでくる「使者」なのではないかと。

 

大阪では出不精な妻も

因島に帰省するとハチと毎日合計2万歩も散歩する。

 

いつもはあまり散歩に連れて行ってもらえないハチは大喜びである。

私も島での占いが終ってから一緒に散歩する。

私を見ると大喜びで尻尾を振りヘラヘラ・ニコニコとすり寄って来るハチを観察してみて、どうやら私を噛んだことなど全く記憶にないようだ。これでは腹の立てようがないではないか。

 

人間にも自分勝手で次々と異性を取り替え本能で生きる者がいるが、そういう人に限って憎めない人だったりする。ハチと同じで腹の立てようがない。ひょっとして、それも自然の使者なのかもしれない。

 

自然とは、大きな河の流れのように人間の社会常識とは無関係に悠々と存在している。そして、ときどき動物や人間の姿を借りて使者を送り込んでくるのだ。

 

「さあ、社会的な常識を無視するこんな私を愛することができるかな?」「あなたは自然という神性をまだ認識できるかな?」

とそう問いかけてくる気がするのだ。

 

羅王