エッセイ「家族旅行」

家族旅行

 

一泊二日でプチ旅行に出かけることにした。

 

長崎・雲仙・熊本を巡る九州復興割ツアーで

豪華で盛りだくさんなのに割安なので娘ふたりも連れた家族旅行だ。

 

4人で旅行するのは久しぶりなので妻はちょっとテンションが上がり、一泊なのにあれこれと着替えを入れたり出したりしてかなり楽しみにしている様子。

 

ヨーロッパに滞在していた頃は妻も私も「旅行業」を仕事にして生活していたので、年がら年中お客さんを連れて忙しく旅をしていた。

 

観光がオフシーズンになる冬には毎年のように娘たちも連れて家族旅行に出かけたものだ。

 

当時乗っていた小型のフォードを夜中走らせてオランダの港からフェリーに乗り英国へ渡ってスコットランドの北の端まで旅したこともある。

 

モスクワよりも北だからと毛布を積んでいったが暖流のせいでそれほど寒くはなく嵩張る毛布は邪魔になった(笑)

 

またドイツから東へ東へと走りようやく民主化の進んできた東欧へ、バルト海沿岸へ、またアルプスを越えて南フランスやイタリアへと様々な旅をした。

 

家族での旅行はいつも

行き当たりばったりの予定なし予約なしの旅だ。

 

仕事では完璧にオーガナイズされたツアーの世話をしていたのでプライベートでは企画されたものに乗っかることに抵抗があったし、旅行業のプロなんだからモチロン「なんでも自分でできる」という自負があった。

 

しかし、行き当たりばったりの旅では宿探しに苦労する。

 

まだ今ほどネットが普及していない時代だったので公衆電話から電話をかけまくったり、みんなで手分けして「部屋はありますか」と直接小さなホテルを何軒も回ったりした。

 

それでも見つからない時は、よ~しこの町は諦めて次の町に泊まろう、と車を走らせた。

 

いろんなトラブルがあっても最終的には

「あ~、面白かったね」ということになる。

 

私も妻もまだ若かったのだ。

 

ところが、あるとき妻と2人でドイツ人向けの一週間トルコに行くツアーに参加した。現地係員のついた企画されたツアーで我々には初めての体験だった。

 

トルコに到着すると、スーツケースはスタッフが勝手にバスまで運んでくれたので、まずこれにビックリしたものだ(笑)

 

宿泊も高級5星ホテルで食事も毎日バイキングが朝晩付いている。こんな値段でこんなサービスが受けられるのだ。

 

今まで「自分たちで何でもする」ということに拘って「ラクラクとサービスを受ける」ことを知らなかった。その道のプロなんだから何でも自分で出来るという自負は、実はサービスを受け取ることに対するブロックになっていたのだろうか。

 

若いときは観光客と沢山の町々を巡って案内したりサービスしたりすることこそが私の生き甲斐だったのに!

 

この時、目からウロコがはがれるような感覚があった。

 

旅をするのに頑張る必要も苦労する必要もない。

誰かにサービスをすることよりも、サービスを受け取る側に心地よさを感じるようになったのだ。

 

ラクでいいんだと思うようになった。

年を取ったということなのかもしれない。

 

サービスを豊かさと言い換えれば、

豊かさを受け取る準備ができたのかもしれない。

 

妻は、旅が終わらないうちからパンフレットを眺めて、次はどんな豪華な旅が格安で提供されているかしらと、サービスを受け取る準備に余念がない。

 

私は、大抵妻が見つけて来た旅行に乗っかって楽しんでいる。

 

妻は怠慢だとなじるが、

旅選びまでサービスとして提供されているのだから

一番贅沢なのは、この私なのかもしれない♪

 

羅王