エッセイ 「イモ虫の扁桃炎」

サナギ準備中
サナギ準備中

イモ虫の扁桃炎

 

10月に入ってもまだ日中は真夏のように暑い日が続いていたが23日前からようやく朝晩は秋らしく冷え込むようになってきた。

 

それで、寒がりの私のために妻は押入れから毛布を引っ張り出し、リビングのテーブルもコタツ用の暖かい布団で覆われた。

 

しぶとく居座っていた夏はやっと去ることにしたようだ。

 

季節の変わり目の不安定な気温のせいか

先週私は何十年か振りにひどい扁桃炎で苦しんだ。

 

喉に何だか違和感があるなぁと感じて次の日にはもう唾も呑み込めないほどに扁桃が巨大化し高熱も出てしゃべれない、飯も喉を通らないし眠れない状態になってしまった。

 

最終的には耳鼻咽喉科で扁桃にメスをズブズブ突き刺して膿を出してもらってようやく快方に向かったのだが、そのお蔭で体重がなんと5キロも落ちてしまった。

 

ここ数年、どう頑張っても体重は落ちるどころか、半年前にはとうとう三桁の大台に乗ってしまっていたのに、である。

 

妻は私が痩せたことを喜ぶどころか、

もう50代の半ばなんだから若くない。

激しい運動とかは似合わない。

 

もうムリをしてはいけない!

としきりに言い聞かせてくる。

 

今回の扁桃炎もフィットネス・クラブで

ハッスルし過ぎたせいだと結論づけている。

 

言い争わないために、

まあ、そうかもしれないと応えてはいるのだが、

心のなかではこの頑健な私が病気に負けるワケはない、

という思いが強い。

 

生来の病気知らず疲れ知らずの私を喩えて

「ラオウさんは使い減りしない人よね」

とその昔スイスでのハイキング・ガイド中に言われて、

なんだか丈夫な掃除道具みたいな言われ方だな~

と大笑いした記憶がある。

 

それは20年以上も昔の話なのだが(笑)

 

ところで我が家のベランダの柑橘の鉢植えには

毎年アゲハ蝶が卵を産みに来る。

 

気が付いたときにはすでに

丸々としたイモ虫君がせっせと柔らかい若葉を喰いまくっている。

 

その柑橘は私が種から育てて大事にしている木なのでちょっと腹も立つのだが毎日観察していると愛着も湧くし成長が楽しみでもあるのだ。

 

さんざん葉っぱを食べ尽くしたイモ虫君は

ある日を境に木を降りて身を隠す場所を探す。

 

もう食べたり動いたりする必要はない。

 

私と妻は彼らがどこにいったか

ベランダ中を探すのだが見つけたのは2匹だけである。

 

今現在、その2匹はそれぞれの場所で

小さなサナギで蝶になる日を待っている。

 

サナギはその小さな殻の中で自身をドロドロに溶かし、

葉っぱをバリバリ食べていた顎や枝を這い回るための丈夫な足の中枢神経の代わりに花の蜜を吸う器官や空飛ぶ羽の機能に変化させる。

 

そう考えるなら私自身だってそうなのだ。

 

もうダイエットやジム通いで昔の若さを取り戻そう

などと頑張る必要はないのかも知れない。

 

国から国へと移動したり、出張先で身を削って働いたりする活動期は終わり、一か所に居を構えて内側を熟成させることで羽化を待つ時期なのかも知れない。

 

秋空の下、

ようやく私のイモ虫時代も終わりを告げようとしている。

 

とはいえ、当分フィットネス・クラブを辞めるつもりはない。

身体が本調子に戻ったらもっとレッスンに出てやろうと目論んでいる。

 

妻からは、

いつまで経ってもイモ虫根性の抜けない男なのね!

と言われそうだ(;^王^)

 

 

羅王