エッセイ「タマゴのままゴロゴロと」

復活祭のウサギと卵:
復活祭のウサギと卵:本来はウサギが卵を転がす。

タマゴのままゴロゴロと

 

いきなりやって来た変化に

準備が整っている人はあまりいないものだ。

 

また往々にしてグズグズと思い悩む猶予はなく、

即座に決めて行動に移すほか手はない。

 

決断する準備とその行動は

ニワトリとタマゴの関係に似ている。

 

いろいろな構想というタマゴを温めて準備をし、

機が熟したと思ったらタマゴから孵って

ニワトリとなり行動するというイメージだ。

 

ただ、昔から私はその「準備」が苦手で

いきなりの変化に対応できず路頭に迷ってしまうことも多かった。

 

妻はそのせいで苦労してきたが、

私自身は「準備しないこと」こそが

自分の自由さを象徴していると勝手に思い込んでいた。

 

30年前に渡欧したときも

ただ東京の住居を引き払い僅かな貯金を懐に妻とふたりでスーツケースをゴロゴロと転がして何のあてもなく日本を後にした。

 

大学に入学準備するための語学学校に入る手続はしていたが住む場所もなくそれこそいきなり路頭に迷ってしまったのだ

 

私はそういうときしばし思考が止まってしまうのだが、いざというときには女性のほうが強いものだ。妻はどこかに情報がないかと必死になって「JAPAN」をキーワードに片言の英語で電話をかけまくった。

 

それで南ドイツの小さなその町に日本人向けの語学学校が寮や下宿付きで存在することがわかったのだ。私たちはひとまずそこに落ち着き数ヶ月を過ごすことができた。

 

しかしふたりで何年も過ごす余裕があるわけではないし

働くこともできないので持ってきたお金は一年もしないうちに底をついてしまった。

 

私は例によって何も考えてはいないが、

妻は不安を抱えまた必死になって情報を集める。

そして夏休みにスイスでのアルバイトが決まったのである。

 

しかし、そこも数ヶ月の雇用契約でその後どうするかを考えねばならない。オーストリアに渡ったが滞在許可を得ることができずドイツに戻ってきてようやく大学に入学し観光ガイドで収入を得ることもできるようになった。アジア系外国人の滞在はいつも難題ばかりだったのだが・・・。

 

そういう人生の局面を

どうにか切り抜けてきたのは私よりも

いつも先に妻の決断があったからだと思う。

 

ただ、彼女が決めると、

その雑務や交渉のすべては私の役目だ。

 

いつもオレばかりが働いて不公平だと訴えたが、

彼女の方は決断する方がもっと多くのエネルギーを費やすのよ!

と主張する。

 

まあ、どちらでも構わない。

 

我々夫婦はそういう関係性らしい。

 

言い換えると、

妻がタマゴを孵す(決断)役で、

私はニワトリ(行動)役なのだろう。

 

ヨーロッパでは春になると

町中カラフルなイースター(復活祭)の飾りつけで賑やかだ。あちこちに彩色された卵や可愛らしいウサギが登場する。

 

卵は生命誕生の象徴で

ウサギは多産なので復活と繁栄のシンボルなのである。

 

寅さんみたいなハットを被ったイースターバニーが得意げな面持ちで卵をゴロゴロ転がしながら春を告げにやってくる。

その姿はまるで私みたいではないか!

 

ウサギは卵を転がしている限り自分を自由で格好いいと思っているのだが実は卵は生まれるために存在するのだ。やがて卵は割れてニワトリへと姿を変える。私は「自由人」であると自負しながらも実際は「変化」を苦手としてきたが妻のエネルギーを手助けにここまで何とか変化し続けてきたようだ。

 

 相談に来られた方に

「突然の転機にどう対応したらいいでしょう」

と問われたら、羅王流の行き当たりばったりを

オススメするわけにはゆかない。

 

でき得る準備をして

新しくなる覚悟をしなさいとアドバイスしている。

 

ところが占い客の方には

具体的な構想も目的もない状態で、

どうやったら新しくなれますかと訊く人もいる。

 

タマゴを孵す意図がないなら、

タマゴのままゴロゴロと転がしてゆくしかない。

 

そうすると、

いつまでもグズグズと決断せず状況に流されている内に、

どこかの木か電柱にぶつかって

痛い思いをしてからヒナに孵ることになるだろう。

 

ひょっとして私羅王も妻の決断がなかったなら、

ずっとタマゴのままゴロゴロと転がすことを得意としてきたかもしれない。

 

そろそろニワトリ役ばかりでなく、

タマゴを孵す役割も担おうかなぁ~とも思う。

 

だが、出来ることならタマゴは転がしている内に

自然にパカッと割れて、勝手にニワトリになって欲しいと願っている。

 

生来の面倒臭がり屋なのだ・・・(;^王^) 

 

羅王