上海へのプチ海外旅行

上海の高層ビル
上海の高層ビル

「上海へのプチ海外旅行」

 

恥ずかしい話ではあるが妻も私もお隣さん中国についての知識を全く持っていない。漢字が苦手なのは長年のヨーロッパ暮らしのせいも多少はあるかもしれないがそれ以前に学生時代から漢文の授業や中国の歴史についてもちんぷんかんぷんで親近感を持てないでいた。

 

韓流ドラマの時代劇は好きだし親近感も感じるのにどうしてなんだろうと改めてふと考えてしまう。世界中あちこち旅しているが欧米ばかりでこのままでは完全に「西洋かぶれ」と言われても仕方ないなあとは思っていた。

 

ところが急に妻が「年末年始に上海に行こう」と提案してきたときには「え~??」とまるで乗り気にはなれなかったものだ。着々と計画を進める妻に対してありとあらゆる中国についてのネガティブキャンペーンで抵抗を試みた。

 

「空気汚染がすごいらしいぞ」

「危険で何が起こるかわからんし」

「トイレが汚いんだって」

「腹を壊したらどうする」などなど。

 

妻はたった一言言い放ったのだ「だって、知らないとこへ行ってみたいじゃん!」

 

私はその言葉を聞いた瞬間に腹を決めた。

 

そうだ、やっぱりアジアだって知るべきなのだ。

というより「今まで嫌いと思い込んで避けてきたもの」を受け入れていくべきなのだと。

 

好き嫌いは誰にでもあるしそれが自分のカラーにもなり得る。しかし、単なる食わず嫌いや他人の情報を鵜呑みにして物事を否定したり拒否したり切り捨てたりすることは自分の世界を狭くすることだ。

 

まあ、簡単に言えば、知ったかぶりで負けず嫌いの私は「未知の領域へ踏み込むことが不安な自分」と思われることに我慢がならなかったワケである。

 

というワケで4泊5日の上海ツアーが実現したのだが50代の男が一大決心をして出かけていくほどの距離ではない。関空から2時間前後で到着する。旅行中に沢山写真を撮ったが帰ってきて整理しながら眺めてみるとどの写真も背景がぼんやり白く濁っている。

 

今朝の大阪の空は真っ青で空気も澄んでいたが中国の大気汚染はかなり深刻なレベルではあるようだ。それでもこの国の人々はたくましく生活している。

 

まるでフランクフルトかと見まがうほど立派なビジネス街、林立する20階~30階以上の高層アパート群、小学校時代に授業で描いた「未来都市」のような金融街、しかし一方で下町の曲がりくねった埃っぽい路地や市場で人々は昔ながらにあれこれを売り買いし混沌と雑多な様相で暮らしている。

 

上海の人口は2千万人だそうだが実際は何百万人もの無国籍の人々がいて正確な数は把握しきれないらしい。私の上海の印象は「クレイジー」という一言だ。急激な経済成長に人々の心はついていけず都市全体が浮足立っている。

 

しかし考えてみれば数十年前の日本だって同じようなものだった。私の子供時代は深刻な公害の問題が取り沙汰されていたしバブル経済の頃は日本中が浮足立っていた。このあとバブルがはじけてこのクレイジーな状態から人々は我に返り落ち着きを取り戻す時代がくるのだろうか。

 

今回参加したツアーは8組の夫婦で16名のグループだった。50代か60代くらいの中高年の夫婦で何度も中国に旅行にきているようだ。

 

食事のときは中華式丸テーブルに8人ずつグルリと座るのだが恥を忍んで歴史のことを少し聞いてみた。同じテーブルの3人の男性は皆詳しいようでいろいろと教えてくれる。彼らは中国のことが本当に好きで来ているんだろう。

 

最終日は歴史博物館や魯迅記念館にも寄った。魯迅は有名な文学者だそうだが妻も私ももちろん聞いたこともない。でも、その記念館の周りは公園になっていて世界の文学者の像が建っている。ゲーテやシェイクスピアの像は見ただけですぐわかったのだ(笑)公園では多くの家族連れが凧揚げなどをして遊んでいる。どの家族も明るい顔をして幸せそうなのが印象的だった。

 

また大きな人の輪ができているのは何かと思ったら大合唱が始まった。ガイドさんによると毛沢東時代の歌をみんなで歌っているのだそうだ。

 

ツアーなので上海の上っ面をサラッと見ただけという感じだ。それでも中国を大嫌いだった私は何百枚かの写真を撮りまくり毎回の中華料理を楽しみ偽ビールの文句を言い、漢字に悩まされながらも中国らしい古い建物や橋、街並みや水路を眺め、中国という国に少しだけ触れたような気がする。

 

「近いし今度は自分たちでまた来ようね」妻はもう少し深くこの街に入っていきたいようだった。

 

さて、今まで否定し目を向けることのなかったこの国に少しだけ触れることのできた私は私自身を広げることができたのだろうか。

 

まあ、また中国を訪れるのも悪くはない。ほんの少し中国を好きなっている自分がいた。

 

羅王